お客様はモノではなく価値を買っている
「廃業寸前レストランの復活ストーリー」でマーケティングの理論を理解できるのが、10万部突破のベストセラー「ドリルを売るには穴を売れ」です。
「穴を売れ」ってどういうこと?
一見少し分かりにくいタイトルですが、マーケティングで考えるべき顧客の価値(ベネフィット)を表現されており、読み終えるとそのタイトルの意味がよく分かります。
私は、たしかブロガーのヒトデさんがYou Tubeでおすすめされていたことがきっかけで本書を読んだことがありますが、今回、オーディブルの聴き放題対象作品として(令和6年2月13日に)配信されたため、あらためて聴いてみたところ、内容はもちろんですが、ナレーションも含めて最高な作品に仕上がっていて、感動しました。
そこで今回の記事では、「ドリルを売るには穴を売れ」の内容のポイント、ストーリーとの兼ね合い、オーディブルのナレーションなどについて、要旨(私が理解した内容)や感想をお話しします。
「ドリルを売るには穴を売れ」の要旨
本書では、マーケティングの基本的な4つの理論(👇)について、その考え方が理解できるように、分かりやすく、体系立てて書かれています。
- ベネフィット
- 顧客にとっての価値
- セグメンテーションとターゲティング
- 顧客を分けて絞る
- 差別化
- 競合よりも高い価値を提供する
- 4P
- 価値を実現するための製品・価格・販路・広告
以下、順に見ていきます。
ベネフィット
「ベネフィット」とは、「顧客にとっての価値」のことです。
たとえば、工具のドリルを買う人は、穴を開けるためにドリルを買っています。ドリルそのものではなく、ドリルが開ける穴に価値があるので、この場合のベネフィットは「穴」ということになります。
たしかに、もし他に簡単にきれいな穴が開けられる工具があれば、別にドリルでなくてもいいですよね。
これが、本書のタイトル「ドリルを売るには穴を売れ」の意味です。
「機能的ベネフィット」と「情緒的ベネフィット」
そして、ベネフィットは、「機能的ベネフィット」と「情緒的ベネフィット」に分けられます。
「機能的ベネフィット」とは、便利、美味しいなどの物理的な価値のことで、「情緒的ベネフィット」とは、ステータス、達成感などの情緒的な価値のことです。
たとえば、ブランドの腕時計で言えば、👇です。
- 機能的ベネフィット
- 正確な時間が分かる
- アフターサービスが良い
- 情緒的ベネフィット
- デザインが美しい
- ステータス、憧れなど
つまり、品質の良い腕時計を手に入れると同時に、「憧れの腕時計を身に付けている自分」も手に入れています。これが、腕時計の価値です。
人間の3欲求
先の腕時計の例からも分かるとおり、価値=人間の欲求、欲望です。
つまり、いつでも時間が分かるようにしておきたい、いい腕時計を持っていると思われたい、などの欲求をかなえるために、腕時計を買うわけですね。
この欲求について、本書では、自己欲求、社会欲求、生存欲求の3つに分けられるとしています。
具体的には👇です。
- 生存欲求(快適に生きること、快楽など)
- 暖かい家に住みたい、美味しいものを食べたいなど
- 社会欲求(他者からよく思われたい)
- センスが良いと思われたい、尊敬されたいなど
- 自己欲求(自分の中で完結する)
- もっと成長したい、充実感を得たいなど
たとえば、家(マイホーム)に関して言えば、👇のような感じです。
- 生存欲求
- 安全性、快適性(地震に強く断熱性も高いなど)
- 社会欲求
- いい家に住んでいると思われる自尊心
- 自己欲求
- マイホームを持っている達成感
このような欲求を満たすことができれば、人はその商品を買う、ということになります。
セグメンテーションとターゲティング
「欲求」って言っても、人によって様々じゃない?
もちろん、同じものを買う場合でも、人によって求めるものは違います。
たとえば、髪を切ってもらうという同じサービスでも、おしゃれなヘアースタイルを求める人もいれば、安さと早さを求める人もいます。一般的に、20代と60代とでは求めるものが違いますし、性別によっても違うでしょう。
そこで必要になるのが、「セグメンテーション」、つまり顧客を分けることです。
セグメンテーションの方法にはいくつかあり、上の例のような性、年齢などで分ける「人口統計的セグメンテーション」の他、「心理的セグメンテーション」と呼ばれるものがあります。
心理的セグメンテーションにもいろいろありますが、たとえば先ほどの腕時計について、ベネフィットで分けた場合の例は👇です。
- 「そこそこ正確で低価格」層
- 「正確で手間いらず」層
- 「デザイン重視」層
- 「ブランド重視」層
これらのセグメンテーションを組み合わせて、分けられた顧客のグループ(セグメント)の中から、商品を売る「ターゲット」を選びます。
差別化
ターゲットを絞れば売れるのかな?
セグメンテーションで分けて、狙うターゲットを決めることは大切ですが、それだけでは売れません。
理由は、競合他社も同じように顧客が求めるベネフィットを提供しているからです。
その中で商品を売るためには、「競合より高い価値」を顧客に提供することが大切で、その「提供する価値の競合との差」が「差別化」です。
差別化戦略は大きく「手軽軸」、「商品軸」、「密着軸」の3つ(👇)に分けられます。
- 手軽軸
- 早い、便利、安いなど
- 商品軸
- 最新技術、最高品質など
- 密着軸
- 好みを分かってくれている行きつけの店など
それぞれ提供する価値が違い、また、全てを満たすことはできない(安価で最高品質の商品は作れない)ため、全て平均以上に保った上で軸を絞って価値を高めていくことで、差別化が図れます。
4P
今までの話を踏まえて、顧客に価値を提供し、その対価としてお金をもらうための具体的な手段が「4P」です。
4Pとは、「Product(製品・サービス)」、「Promotion(広告・販促)」、「Place(流通・チャネル)」、「Price(価格)」のことで、たとえば、自分が野菜ジュースの買い手という立場で考えてみると👇です。
- 製品・サービス
- どのメーカーのどの野菜ジュースを買うか
- 流通・チャネル
- コンビニやスーパーで買うか、通販で買うか
- 広告・販促
- その野菜ジュースを知ったのは店頭か、CMか
- 価格
- いくらで買うのか
ここでも、ベネフィット(顧客にとっての価値)を考えることが大切です。
「製品・サービス」について言えば、たとえば、野菜ジュースを買う人は、ジュースを買うと同時におそらく健康も買っています。パンの場合は、休日の朝にパンを買う人は「優雅なひと時」を、平日の昼間にパンを買う人は「時間の節約」を、それぞれ買っているのかもしれません。
また、「価格」については、たとえば、美味しくないラーメンはいくら安くても売れませんし、ブランドのバッグはいくら高くても売れます。居酒屋の300円の冷ややっこは、原価から考えれば高くても、それだけの価値があると思って注文されます。
このように、製品と価格は分けて考えられませんし、そこに「流通・チャネル」「広告・販促」も加えた4つセットで一貫性が保たれていることが売れる条件です。
「ドリルを売るには穴を売れ」は「ストーリー」で理解しやすい
以上が、私が本書を読んで(聴いて)理解した、ごくかいつまんだ要旨ですが、この本の魅力は、このようなマーケティングの理論をストーリーで分かりやすく解説されているところです。
ストーリーは、商社の新規事業企画室に努める売多真子(うれた・まこ)が、室長と2人で社長室に呼ばれるところから始まります。
話の内容は、赤字を垂れ流し続けているイタリアンレストランについて、2か月以内に取締役会が納得できる改善案が出なかったら、新規事業室は解散、店も閉店するというものでした。
その後、真子が、いとこで人気コンサルタントの売多勝(うれた・まさる)の指導を受け、そのレストランのホールマネージャーの上原望(うえはら・のぞみ)などと力を合わせて新たなイタリアンレストランの企画を考えていく、という流れで話は展開されていくのですが。
このストーリーに、上でお話ししたマーケティングの理論が盛り込まれています。
たとえば、「ベネフィット」については、真子と勝が食事しているシーンで、真子は勝から、イタリアンレストランに人が来る理由について問われました。
そのとき、最初は、「ゴハンを食べにくるんですよね?」と答えた真子ですが、その後の勝との話や、そのレストランの客層などから、それだけではないことに気が付きます。
「そうか、デートとか、不倫とか、接待とか、オシャレ感を味わうとか、そういうことのためにイタリアンレストランに行くんですね。食べるだけじゃないんだ」
「ドリルを売るには穴を売れ」著者:佐藤義典
また、「セグメンテーションとターゲティング」については、2人がまた別のレストランで食事をしているシーンで、その店の雰囲気や演出などから、真子はその店のベネフィットが「仲間と楽しく盛り上がる」、顧客ターゲットは「若い男女のグループ」だと気付きます。
その後の勝の話により、真子の気付きは深まっていきます。
「(性と年齢で切る方法は楽だが)ポイントは『来る理由』だ。30代だって、騒ぎたいときはここに来るだろ。20代だって、落ち着いて飲みたいときには表参道に行くだろ」
「ドリルを売るには穴を売れ」著者:佐藤義典
そして、「差別化」については、真子がそれまでに巡ったイタリアンレストランの特徴から、3つの差別化戦略(手軽軸、商品軸、密着軸)を理解した上で、優先する「軸」を考えていきます。
「絶対に全部は無理。時間やお金の投資は限られてるし、全部やろうとすると、かえって特徴が出ないから差別化できないよ」
「ドリルを売るには穴を売れ」著者:佐藤義典
それらを全て理解した上で、真子と望はアイデアを練り上げ、プレゼンテーションに挑みます。
このように、ストーリーに沿ってマーケティングの理論が展開されるので、マーケティングの知識がない私でもポイントを理解することができました。
オーディブルの「ドリルを売るには穴を売れ」のナレーションが最高
お話ししましたとおり、ストーリーで分かりやすく理解できることが本書の特徴なのですが、今回私が本書をオーディブルで聴いてみて、最も良かったと思うのはナレーションです。
本作には、上でお話しした真子、勝、望の他、大久保室長、清川店長代理、広岡社長などさまざまな人物が登場するのですが、ナレーターの大西美佳さんは、その全てを演じ分けられており、男性の登場人物の声も違和感なく響きます。
声は心地よく、聴きとりやすい、まさに最高のナレーションでした。
一般的に、「オーディブルはナレーションが良い」とよく言われます。
実際、作品によってはたまに声が聴きとりにくかったり、男性が演じる女性の声が気になったりすることはありますが、全体的にナレーションのクオリティは高いと思いますし、有名な俳優や実力派の声優の方などのナレーションはオーディブルの魅力の1つだと思います。
しかし、私が今まで100冊以上オーディブルの作品を聴いてきた中でも、本作の朗読の素晴らしさは圧巻でした。
大西美佳さんがオーディブルでナレーターをされているのは、現在(令和6年3月時点)本作のみですが、今後も増えていってほしいと思います。
オーディブルで聴ける「ドリルを売るには穴を売れ」のまとめ
以上、「ドリルを売るには穴を売れ」の内容のポイント、ストーリーとの兼ね合い、オーディブルのナレーションなどについて、要旨や感想をお話ししました。
体系立てて分かりやすくまとめられたマーケティングの理論、さらに分かりやすく理解できるストーリー仕立てはもちろんですが、ナレーションがとても良いため、ぜひ、オーディブルで聴いてみていただきたい作品です。
本作はオーディブルの聴き放題対象作品であり、オーディブルは30日間の無料体験ができますので、本作を無料で体験することもできます。
なお、オーディブルの感想については👇で詳しく解説しています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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